羽田空港の国際空港としての課題

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10月21日の新国際線ターミナルのオープンと新滑走路の供用開始は、ついに来週。羽田空港の国際空港としての課題をまとめた記事を2本転載する。

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『羽田特集:24時間国際化空港としての課題-本格稼動後の発展に期待』
[掲載日:2010/10/12] TRAVEL VISION
 いよいよ24時間国際空港として稼動を開始する羽田空港。首都圏からのアクセス利便性や充実した国内路線による地方需要の獲得などのメリットがあるが、国際線発着枠や発着時間帯などの制限もあり、現在のところその効果への期待は限定的のようだ。今回は羽田空港の国際化について、現在の就航路線やスケジュールなどの概要から、今後の課題を探り、展望する。
まずは17路線が決定、欧州便はパリとロンドンのみ
 10月31日からはじまる冬スケジュールで、羽田空港から発着する国際線は17路線。アジア近距離では、ソウル(金浦)、上海(虹橋)、北京、香港、台北(松山)。深夜早朝の東南アジア路線は、バンコク、シンガポール、コタキナバル、クアラルンプール。深夜早朝の北米路線は、ホノルル、サンフランシスコ、ロサンゼルス、デトロイト、ニューヨーク(JFK)、バンクーバー。深夜早朝の欧州路線はパリとロンドンだ。
 最近になってブリティッシュ・エアウェイズ(BA)が来年2月からのロンドン線の開設を発表。また、LCCのエア・アジアX(D7)が今年12月からクアラルンプール線に破格の運賃で参入するニュースは大きな話題となった。
 とはいえ、欧米を含む主要都市路線への発着枠は深夜早朝時間帯にしか認められておらず、羽田空港での駐機時間、現地到着時間における空港発着枠の問題、羽田空港の早朝深夜時間帯における滑走路使用制限などの理由から、欧米路線への参入はまだ限定的。羽田就航に消極的な欧米キャリアも多く、例えばエールフランス航空(AF)などは日本航空(JL)との共同運航という形で、羽田のメリットをいかそうとしている。
地方需要の取り込みは限定的
 羽田国際化の大きなメリットのひとつとして期待されているのが、地方需要の取り込み。深夜出発便への内際乗り継ぎは問題なく、昼間のアジア便についても多くが同日乗り継ぎ可能だ。しかし、早朝発については地方空港からの同日乗り継ぎが不可能で、東京での前泊が必要となってくる。また、サンフランシスコ便、ホノルル便、ニューヨーク便、デトロイト便、バンクーバー便、コタキナバル便、バンコク便、シンガポール便(SQ634)、ソウル便(KE719)は羽田着が夜の22時30分から23時30分となるため、際内の同日乗り換えがほぼ不可能となり、後泊が求められることになる。こうしたことから、羽田空港発着の長距離路線の旅客ターゲットは必然的に首都圏需要といえるだろう。
 また、アジア便についても、関空や中部も含め主要な地方空港からソウル、上海、台北などへはダイレクトで結ばれているため、わざわざ羽田空港を経由するメリットはあまりない。特に地方発ソウルについては、大韓航空(KE)が14都市、アシアナ航空(OZ)が16都市に直行便を運航しているため(2010年夏スケジュール)、「羽田に勝ち目なし」といい切る旅行会社も多い。さらに、そうした地方空港から仁川国際空港を経由して世界各地に飛ぶ需要も羽田にとっては依然として驚異だ。
空港へのアクセス拡大も課題多く
 羽田空港をハブ空港として運用していくうえで、国際化とともに24時間化も大きなテーマ。空港とのアクセスを担う公共交通機関も、10月31日からの深夜早朝便スケジュールにあわせてダイヤ改正や増発で対応を見せている。京浜急行は早朝出発便への対応として横浜を朝の5時24分発、羽田空港5時48分着の特急を新設。品川からは5時02分発、羽田空港5時30分着の電車が一番早い。また、東京モノレールは浜松町4時58分発、羽田空港5時11分着を新設するなど、運行時間帯を拡大する。このほか、東京空港交通および京浜急行のバスも運行時間を拡大して利便性を高める。
 しかし、早朝便の出発時間は6時25分から6時55分の間。各鉄道の始発便を利用しても、出発2時間前に到着することは不可能だ。東京空港交通のリムジンバスはダイヤ改正後も朝5時以前に羽田空港に到着する便は予定しておらず、京浜急行のバスは5時前に到着する便を設定するが、出発地は大森駅と蒲田駅に限定される。ただし、全日空(NH)とJLは羽田発着の自社運航便について、国際線の搭乗手続きと手荷物預かりを出発時刻の40分前とする対応を開始する。
 早朝便の出発時間に間にあうとしても、公共交通機関の出発地は主要駅に限られ、自宅あるいは会社から主要駅までの足の確保が必要になる。これは、帰りの深夜便についても同様で、羽田から鉄道やバスで主要駅に到着しても以降の公共交通機関の足は途絶えてしまう。そうなった場合は首都圏の旅行者でさえ、タクシーの利用か近隣のホテルでの前泊/後泊になる可能性が高い。深夜早朝便に焦点をあてると、個人ベースではコスト高になり、デメリットになる可能性もありえるわけだ。
 今後、発着枠が段階的に増え、本格的な24時間国際空港化をめざしていくうえでは、包括的な交通インフラの向上が求められてくる。旅行者の利便性を考えた場合、公共交通機関の運行時間によって発着時間も制限されかねず、24時間運用が無力化してしまう恐れさえある。国内および国際航空ネットワークの拡大とともに、地上交通インフラも含めたグランド・デザインがどこまで描けるか。羽田空港の24時間国際空港化に残された課題は多い。
課題多くも大きい業界の期待
しかし、課題が多いながらも、羽田の国際化が航空・旅行業界を活性化させる起爆剤になることは確かだ。「成田に加えて、国際線の選択肢が増えることは利用者にとって大きなメリット」と業界関係者は声をそろえる。深夜早朝便はビジネス客だけでなく、新たなレジャーマーケットを生み出す可能性もある。また、成田と羽田両方を利用するフライトの選択、あるいいは両空港を利用した商品造成など、これまでにはなかったビジネスチャンスが生まれてくることも考えられる。「飛びはじめたら、また違った展開が見えてくるかもしれない」。羽田国際化に対する業界の期待は大きい。
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『羽田空港 国際化に期待と限界 定期便31日就航』
毎日新聞 10月17日(日)11時12分配信
 羽田空港(東京都大田区)の新滑走路と新国際線ターミナルが21日に供用を開始し、米欧などへの国際定期便が31日から就航する。海外旅行や出張は都心から遠い成田空港(千葉県成田市)の利用を余儀なくされていただけに利便性アップが期待される。だが、「羽田国際化」に反発してきた成田も国際線拡充を図っており、ちぐはぐな動きは、政府が掲げる「アジアのハブ(国際拠点)空港化」をさらに遠のかせかねない。【三沢耕平、寺田剛、山田泰正、斎川瞳】
◇出張、乗り換え 深夜便でロス削減
 「都心に近くて深夜でも利用できるのがありがたい」。月に1、2回は海外出張する丸紅の小林輝也さん(30)は「羽田国際化」のメリットを指摘する。羽田は4都市(ソウル、北京、上海、香港)にチャーター便が飛んでいただけだったが、31日からは米欧やアジアの11カ国・地域の17都市と定期便で順次結ばれる(30日まではチャーター便のみ)。小林さんも来月11日にはさっそく羽田からソウルに飛び立つ予定だ。
 小林さんは出張はもっぱら成田を利用してきたが、職場からは地下鉄と京成線を乗り継いで1時間以上かかる。さらに成田は騒音への配慮から午後11時以降の便がなく、利用するのは昼間の便が中心で出発当日は仕事を慌ただしく済ませて成田に向かった。だが、羽田には地下鉄と京急線で30分程度。米欧便は午後10時以降の出発が多く、シンガポールやバンコクに行く場合、午前0時ごろの便があるため、夜まで働いても間に合い、翌朝から仕事ができる。
 地方空港の利用者にもメリットは大きい。例えば、広島空港の場合、最終便(午後8時45分発)で羽田に向かえば、深夜に羽田で国際線に乗り継げる。羽田から成田まで京成・京急線(直通)で1時間半以上かかった乗り継ぎが不要。成田出発便の時間の関係で、前日に都内や成田周辺で宿泊せざるをえなかったケースも解消。日本の多くの地方空港に就航する韓国・仁川(インチョン)空港を経由する方が便利といわれた地方の利用者の流れが羽田にシフトしていくとみられる。
 ◇国内線移動バスで10分
 ただ、航空各社はビジネス客の利用を見込んで、路線によっては運賃を成田発着より1割程度高く設定している。また、外国航空会社の欧州便は、発着枠の関係で朝6時台の出発になっている。
 さらに、新国際線ターミナルビルは国内線ビルから遠いところで約3キロ離れた場所に建設。両ビルを結ぶ無料シャトルバスは10分弱かかり、重い荷物を持ちながら移動しなければならない。1978年の成田開港後、「国際線は成田、国内線は羽田」とすみ分けし、羽田で国際線を想定した用地を確保していなかったためだ。
 開港当初から4本の滑走路の配置を想定し、ハブ化を推し進めた仁川に及ばないばかりか、国内線と国際線の乗り継ぎが同じビル内でできる関西国際空港にも見劣りする。航空大手幹部は「こんな不便な空港では世界に恥をかく」とぼやく。
 羽田の国際線発着回数は定期便就航後に年6万回(昼間3万回、深夜・早朝3万回)で、成田の年20万回を大きく下回る。昨年の政権交代後に、政府は13年度以降は9万回まで増やす方針を決めたが、それ以上の拡張は難しいとされ、羽田国際化の恩恵を受けられる利用者は限界がある。
 ◇役割不明確「ハブ空港化」遠く
 「(羽田、成田の)2拠点一体でのハブとして展開していきたい」。馬淵澄夫国土交通相は16日の羽田国際化の記念式典後、記者団に語り、羽田と成田の一体運用を進めたい考えを示した。昨年10月、前原誠司国交相(当時)は「羽田ハブ化」を打ち出したが、馬淵国交相の発言はハブ空港を一本に絞りきれない苦しさの裏返しといえる。「羽田ハブ化」構想の背景には、日本の空港の競争力がアジアで低下していることへの危機感があった。羽田と成田の乗り継ぎが不便なため、地方客を仁川空港に奪われ、対抗するため、羽田の「ハブ化」を打ち出した。
 だが、成田側は、千葉県を中心に猛反発。政府のスタンスも羽田・成田を一体でハブ化する方針に修正された。成田を巡っては、今月13日に国交省、千葉県、空港会社などの協議会で年間発着回数を現在の22万回(国内線含む)から14年度までに30万回に増やすことで合意。会合では「成田は兄貴分として兄弟仲良くやっていきたい」(空港会社の森中小三郎社長)との発言が相次いだ。
 さらに、成田は東南アジアを中心に台頭する格安航空会社(LCC)で新たな需要を掘り起こそうと懸命で、LCC誘致に向けた専用ターミナルの建設準備を急いでいる。
 英国ではロンドンに近いヒースロー空港はビジネス客が多く、ロンドンから離れたスタンステッド空港はLCCの拠点など役割分担が明確。国交省も羽田はビジネス路線、成田はツアーなど多様な機能を維持する青写真を描くが、「内・際分離」に代わる新たな役割分担に加え、海外より割高な着陸料の引き下げなど競争力を後押しする政策も不可欠だ。
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