Xちゃんとの別れ際にチップとして2000ペソを渡そうとしたが、いらないと言う。アンヘレスのゴーゴーバーではバーファイン代を含めてのコミコミ価格であり、女の子にはチップとして数百ペソほど渡せばよいが、ずっと小生と共に過ごしてくれ、小生に幻だったのではと思わせるほどの夢心地の時間を与えてくれたXちゃんに1000ペソなり2000ペソなりを渡そうと思っていた。が、いらないと言う。小生の財布に日本のお札が入っているのに気付くと興味をもったらしく、それは何?と聞いてきた。財布に入っていた日本の一万円札を取り出して、彼女に見せた。小生との思い出にそのお札を頂戴という彼女のお願いに小生は迷わず快諾した。一万円といえば4000ペソほどだが、チップを受け取らずそんな可愛いことをいうXちゃんにむしろ痺れた。Xちゃんは以前、大量のチップを渡されそうになったことがあったが断ったとも言っていた。また、あるファランからはマニラへ一緒に行って自宅のコンドミニアムで住んで欲しいと言い寄られたこともあったらしいが当然お断りしたと言う。Xちゃんのそんな逸話や別れ際の立ち振る舞いから、小生はすっかり彼女のプライドや独立心に感心していた。そこには小生の思い描く、したたかで即興的なピーナのイメージ像は全くなく、稀有な存在のXちゃんが天使のように思えた。アンヘレスを去る頃、小生のココロの真ん中にXちゃんの姿があった。
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最初、Xちゃんから年齢を22歳と聞いていた。ふと彼女のIDカードを見る機会があり、生年月日によるとまだ誕生日が来ていないので21歳だと指摘した。前の彼氏のことを聞くと、3年前に別れてずいぶん昔のことだと言った。前の彼氏は日本人で、36歳の自衛官。半年に一度10日間ほど一緒に過ごしていたらしい。が、Xちゃんの友だちをバーファインしたことがきっかけで別れたと言う。前の彼氏とは5年間付き合ったと彼女。何歳のときから?と尋ねると16歳と言う。まずその年齢に驚いた。彼女が言うにはインターネットで知り合ったとのことだった。ただ、16歳から5年間だと別れたのはつい最近ということになる。Xちゃんに対する小生の勝手なイメージは少し綻び始めた。XちゃんのLINEやWeChatのホーム画面を見ると、最近にも彼女の甘い愛の囁きが書いてあるので彼女に聞いてみると前の彼氏とは別と言う。他人のことは言えないが、彼女は惚れっぽい性格なのかもしれない。更にFacebookには5月ごろ、韓国から投稿された写真が掲載されていた。韓国人の彼氏がいて、韓国へ旅行したのかもしれない。彼女の家に韓国語の教則本があったりLINEに韓国語による投稿があったりと、彼女の背景には韓国の影があった。彼女の勤めるゴーゴーのオーナーも韓国人だ。こんなところまで韓国のフィリピン進出が進んでいると実感した。Facebookにはお客と一緒に行ったと思われるフィリピン各地の旅行写真もあり、彼女の交友関係はどこまで広がるのか見当もつかなかった。彼女は働き始めて4週間と言ったが、それは嘘だろう。21歳という若さに反して彼女のキャリアと実力は相当なものだろうと思った。結婚は3~4年後の25歳くらいにしたいと言っていた彼女が、小生の帰国の数日後にして、いますぐ結婚しようと言い放った。そして、実力家Xちゃんの本領はこの後も発揮されていくことになる。
小生がアンヘレスを去ってから数日間、Xちゃんはゴーゴーバーでは働いていないと毎日言っていたが、小生には彼女はどうも働いているような気がした。疑うと切りがないのは確かだ。Jちゃんがバー勤めをしていることを知って小生が大きくショックを受けているのを目の当たりにして、Xちゃんなりに気を使っているのだろうと前向きに解釈することにした。とにかく彼女にはお金が必要なようだ。他の仕事にしてくれない?とXちゃんに聞いてみたことがあったが、他の仕事は安すぎるからダメだと即答だった。彼女自身の生活費、専門学校の学費、親や姉へのサポートなど。一人で生きていくにも大変だろうし、ピーナらしくファミリーへの支援も大切に考えているようだ。彼女が言うには以前は寝る間を惜しんで掛け持ちで仕事をしていたらしい。彼女の姉はなぜか出生証明書が存在しておらず色んな場面で不利益を被るため、Xちゃんが安くない金額を出して出生証明書を後付けで作ろうとしており、これも金がかかると言う。アンヘレス滞在中に、学費の未払い残金はいくら?と聞いたところ彼女は5000ペソと話していた。それぐらいなら小生が援助しようかと思った。しかし、小生の帰国後、専門学校は2年間あり5000ペソは1年目の未払い残金だと言う。それでは2年目の学費の未払い残金はいくら?と聞くと、毎月30,000ペソ必要と彼女。明らかに高過ぎると思った。フィリピンの物価からして専門学校の年間学費は数万ペソといったところだろう。フィリピンの私立大学でも年間の学費は数万ペソとある。アンヘレスでXちゃんに対して感じた高潔さが日に日に損なわれていくのが分かった。Xちゃんと過ごした日々の1週間後、「今日から働くのを再開するけど大丈夫?」と彼女が伝えてきた。小生は彼女へ仕送りしているわけでもなく可否を決める資格もなく、分かったと答えた。ただ、小生のココロには僅かなさざ波が立ち波紋が何度も往復した。その数日後には「もうお金がないから今日バーファインされて大丈夫?」と更なる揺さぶりをかけてきた。それが嫌なら小生が彼女の生活をサポートするしかない。Xちゃんは生活サポートを得るため、小生へ精神的な揺さぶりを小出しに続けた。やがて彼女から単刀直入に生活サポートのお願いがやってきた。Xちゃんにココロを掌握されていた小生は「分かった。毎月8,000ペソでどう?」と答えてみた。日本では2万円だがフィリピンではそこそこの金額だ。すると「10,000ペソじゃダメ?」と彼女。休みが取れたらアンヘレスに来てと言っていた彼女は、なかなか生活サポートを送金しない小生に対し「お金がないから早く来て」と言うようになった。電話で話すとお金の話が必ず出た。最終日にチップを受け取ろうとしなかった彼女の面影、お金にきれいだったはずの彼女の印象はもう跡形もなかった。
アンヘレスで一緒にいた時、Xちゃんは「ファミリーが私の世界の全て。ファミリーのためなら私は何でもする」と言い切った。小生は彼女が本心を述べていることをすぐに理解した。小生がセ○○スと音楽とダンスがもたらす快楽のみを人生の拠り所にする信念を持っているように、彼女も拠り所こそ異なれど揺るがない信念を持っていた。そういえば、Jちゃんは家族と姉妹のためにバーで働いていた。Xちゃんの友だちは家族のため耐える道を選んだ。その対極には、家族の繋がりなど信じていない小生。タイのZちゃんの時にも味わった感情だ。Xちゃんの言葉を聞いた時、二つの世界は決して相入れないという絶望感を素直に受け入れた。
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